Moneytree(マネーツリー)と言えば、人気の家計簿アプリという印象が強いですよね。アップルのベストアプリにも選出されており、街のアップルストアのiPhoneのデモ機にも入っているので、一度は見たことがあるという人も多いのではないでしょうか。
そんなマネーツリーが、実は今、日本のフィンテック化を支える金融インフラの企業として急成長を遂げていることをご存知でしょうか。
今回は、マネーツリーが家計簿アプリから「現在のフィンテック(FinTech)を裏側で牽引する企業」になった背景や提供しているサービスについて、マネーツリーのプロダクトマーケティングディレクターである山口さんにお話を伺ってきました。
山口賢造 氏 プロダクトマーケティングディレクター
マネーツリー創業時からフリーランスとして、Moneytreeアプリのプロダクト設計、デザイン開発を行う。その後、正式に参画。現在はプロダクトマーケティングの責任者としてMoneytreeおよびMT Linkの拡大に従事している。
目次
- 1 実は日本発の企業、マネーツリー
- 2 ビジネスモデルがないところから始まったマネーツリー
- 3 新しいビジネスモデル「MT LINK」をリリース
- 4 IBMの公式ファイナンスAPIに採択、そしてみずほ銀行の導入で知名度が向上
- 5 利用者ファーストのアプリ、だからこそ生まれた「MT LINK」
- 6 マネーツリーはデータのゲートキーパーとしての役割に徹する
- 7 新たな市場で需要が高まる、MT LINKの汎用性
- 8 FinTechは万能ではないが業務全体の効率化には最適
- 9 フィンテックの黒子としてのスタンスは崩さない
- 10 Moneytree自体が銀行機能を担っていくネオバンク化することはない
- 11 GDPRで求められる情報管理体制は、むしろ追い風
- 12 編集後記
実は日本発の企業、マネーツリー
山口:日本の企業で同僚だった外国人3人が立ち上げた会社ということもあり、よく海外企業だと思われることが多いですが、日本発の企業なんです。
現在、社員数約75人、22の国籍のスタッフが働く非常に国際的なメンバーが揃う企業ですが、実は日本発の企業なのです。
アプリのリリース時から、洗練されたデザインや他の日本のアプリとは違った雰囲気を持っていました。私だけではなく、海外からやってきたアプリだと思って使っていた人は少なくないのではないでしょうか。
そんな「実は」日本の企業であるマネーツリーがいかに日本のフィンテック市場で活躍をし、存在感を高めているのかについて掘り下げていきたいと思います。
ビジネスモデルがないところから始まったマネーツリー
まだフィンテックという言葉がブームになる前の2012年に事業を開始しました。
マネーツリーは、これまでの家計簿アプリにはないその洗練されたデザインとシンプルかつ使いやすいUI/UXで人気を博しました。
その結果、2013年、2014年と連続で”Apple Best of アプリ”を受賞し、多くの人に信頼されるアプリとなりました。
広告もなし、アプリ内課金の構想もリリース時はなし
山口:創業者のメンバーたちが利用者をぞんざいに扱いたくないというところを強く強調していました。”お金”という非常にセンシティブな情報を扱う側としてはすごく大事にしている考えでした。その文化は当時から、今でも強くアプリやサービスに影響を与えています。
とにかくユーザーにとって使いやすいアプリを開発するということに焦点をあててリリース。そのため、アプリ内のバナー広告もなければ、登録したメールアドレスへの広告メールも一切ありませんでした。
山口:実際にサービスをリリースしてみて、収益化はユーザーの声を聞きながら考えていこうみたいなところがありました。今振り返ってみても、その辺りが経営メンバーのポールたちのすごいところだなぁと思います。どこかしら落ち着いた大局観みたいなところを持っていました。
リリースした当時、明確なビジネスモデルがあったわけではなく、何となくアプリ内課金をはじめていくのかなという程度のイメージだったそうです。
ただひたすらにユーザーが使いやすいと思うアプリを追求していったことで、「便利で使いやすいアプリ」としてユーザーに高く評価され、現在でもAppStoreで4.6という高評価を得るほどの厚い支持を受け続けています。
新しいビジネスモデル「MT LINK」をリリース
収益モデルを確立していなかったマネーツリーですが、現在もっとも注力しているのが「MT LINK」というサービスです。
山口:有料プランやアプリ内課金を考えていく上で色々な外部の企業さんとの話をしていました。その中で「データを使わせてほしい」「自社でもマネーツリーと同様のことがしたい」という要望の声をいただくようになり、出来てきたモデルです。
MT LINKとは、金融機関約2700社から明細データを自動的に取得できるAPIサービスのことです。金融機関を始めとするフィンテック導入を検討する企業に提供しています。
つまり、Moneytree以外のサイトでもMoneytreeと同じように銀行やクレジットカード電子マネーでの取引データを参照することが出来るツールキットとAPIを提供しています。
これから、フィンテックサービスを始める企業にとってなくてはならない存在になりつつあります。
IBMの公式ファイナンスAPIに採択、そしてみずほ銀行の導入で知名度が向上
山口:金融機関の中で早かったところで一番最初がみずほさんでした。それが2016年の1月です。大手の銀行で使われているということで一気に信用と知名度があがってきました。
今日では、52社の企業にMT LINKを提供しており、そのうち21社が銀行に提供をしています。
もちろん、すぐに金融機関や銀行での採用が決まったわけではありません。
当初はクラウド会計サービスのブームがはじまり、会計系の企業から「オンラインで取引データを取り込みたい」という要望があり、MT LINKが採用されるようになりました。
会計系での実績もあり、その後IBMの公式APIに採択され、そこから金融機関での認知度が広がっていったという形で徐々に利用企業が増えていったそうです。
利用者ファーストのアプリ、だからこそ生まれた「MT LINK」
山口:マネーツリーは「お客様のデータはお客様のもの」をモットーにアプリMoneytreeを運営してきました。
金融系企業にデータを提供するという絶妙な立ち位置はMoneytreeだからこそ実現したのとも言えます。
MT LINKは、利用者の資産情報を広告やマーケティングに利用しなかったマネーツリーだからこそ実現できたプラットフォームと言えるかもしれません。
マネーツリーはデータのゲートキーパーとしての役割に徹する
山口:マネーツリーはその理念からお客様から預かっている資産情報は一切閲覧、利用をしません。データのゲートキーパーとしての役割に徹しています。
通常の家計簿アプリであれば無料で利用できる代わりに登録された個人情報などを基にパーソナライズドされた広告やマーケティングメールが配信されるのが一般的です。
ただ、マネーツリーの場合は、お金に関するお客様の大事な情報であるがゆえに、決して承諾なしに第三者へデータを提供しません。
新たな市場で需要が高まる、MT LINKの汎用性
山口:MT LINKの活用方法として会計サービスでの取引データの活用はわかりやすかったですが、最近ではこれまでになかった業界にMT LINKが求められているんです。
と話します。
山口:不動産であったり、保険であったりとこれまでに事例のなかった企業から銀行等の取引データを自分のサービスやアプリに入れたいという話が出るようになってきています。
不動産会社の事例を紹介してくれました。
山口:ある物件のオーナーさんがいて、A室・B室・C室という物件に入居者がいます。これまでは、オーナーはそれぞれの賃料の入金確認をATMで行うか、定期的にネットバンクを見て確認をしているそうなんです。
そこでMT LINKを活用することで、各室の入金確認をアプリで簡単に行うことができるようになります。
また、すでに導入をしている金融機関でも新しいトレンドが始まっているといいます。
山口:大きなトレンドとしては融資があります。取引明細へ取引記録など銀行のデータを使って貸付の融資審査にAIを使って行いたいというにニーズがあります。
例えばLendyという会社があって我々の MT Linkを使って銀行の情報を取り込むことによってLednyのAIエンジンで貸付の審査を行うような取り組みが始まっています。
参考:マネーツリーの金融インフラサービス「MT LINK」がみずほ銀行の企業向けオンライン融資サービスに採用|マネーツリー株式会社のプレスリリース
FinTechは万能ではないが業務全体の効率化には最適
MT LINKは金融インフラとして活用されるフィンテックだが、必ずしもすぐには万能なサービスにはならないと話してくれました。
山口:我々としては業務のすべてをAIが担うようになることはすぐにはないとは思っています。基本的には我々のサービスを使ったり、AIを使ったりすることによって、業務70%パーセントまでは機械的に手続きを進めてもらって、残りの30%に人的リソースを割くことで精度をあげる。業務全体で見たときの効率化のツールとして使ってもらえたらと思っています。
フィンテックの黒子としてのスタンスは崩さない
新しいフィンテックサービスが立ち上がってくるときの、金融インフラとしてAPIを提供していく、このスタンスは絶対に崩さないと話をしてくれました。
山口:例えば、xxxx for 横浜銀行のように我々のサービスブランドを前面に押し出していくことはしません。 MT Linkの場合は名前が表に出ることはなく黒子に徹しています。
Moneytree自体が銀行機能を担っていくネオバンク化することはない
山口:ネオバンクの話もよく出るんですが、10年後も20年後も我々が銀行に置き換わっていく存在になることは決してありません。黒子となってデータの連携やそれらの提携などを行っていくというスタンスは一切変えるつもりはありません。
「企業のサポートをする黒子として、サービスを提供できる事に非常に光栄に感じています」とのお話頂きました。
GDPRで求められる情報管理体制は、むしろ追い風
GDPRを始めとし、情報管理や取り扱いへの責任は日に日に重くなってきています。
山口:今後GDPRがヨーロッパで始まり、これから日本でもそういった情報管理に関する取り決めが影響を広げていくと思います。我々は当初から「利用者にとってされたくないことはやらない」ってスタンスを取ってきました。GDPRができたところで世界中で考え方自体が変わるようになってきています。我々としては当初からそういった思想を持ってきています。
サービス創業時から根付く「お客様のサービス」「お客様の情報をぞんざいに扱わない」というポリシーが今後のデータ管理のトレンドをすでにカバーしている形となっています。
山口:当初から顧客情報に重きを置いていた我々にとっては逆に強み、追い風になり得るのではないかと思っている
と力強く話してくれました。
日本のフィンテック市場の黒子としての役割
山口:我々としては、どんな新しいフィンテックサービスが出てくるのかも楽しみにしているのです。
MT LINKというプラットフォームを提供することで、あらゆるサービスを裏から支えているマネーツリー。
ユーザー視点に立ってサービスを提供するフィンテックは対エンドユーザー向けのサービスが注目されがちです。
ただ、マネーツリーはそういった日本のフィンテックを盛り上げる影の立役者としての貢献度と存在感を高めていっています。
日本のフィンテックを裏から盛り上げる存在として、今後の活躍に期待です。
編集後記
家計簿アプリの印象が強いマネーツリーの現在、そしてこれからについて教えていただきました。日本のフィンテック化をドライブさせる存在として活躍に期待しております。
貴重な時間を割いてインタビューを引き受けてくださった山口さん、グローザーさんに厚く御礼申し上げます!
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